わたしの恋はバラマンディ

春はあけぼの、夏は遠征。今年も遠征シーズンに西表島へ行く気満々だったのにあろうことか同行者が誰一人集まらない。一人旅は大いに結構が信条の私であるが、西表島へ行き釣りをするための船をチャーターということを考えると信条だけでは如何ともし難い金銭上の制約がある。どうしようかと逡巡した挙げ句、割と大量のマイルが今年の年末に寿命を迎えるという事情も相まって、先日3年以上ぶりの海外旅行をしてきた。行き先はバンコク。2022年7月現在の海外旅行事情や、そもそも今って海外行けるの!?と思った方は先日一生懸命書いたこちらの記事を参照して頂きたい。

tobenon.hatenadiary.jp

さて、釣り好きの皆さんなら"バラマンディ"という魚の名前は知っているだろう。スズキ目スズキ亜目アカメ科アカメ属、みんな大好きブラックバスやシーバスのように口がガバっと開いて牙がないからバス持ちできる魚種総大将みたいな魚だ。ちなみに親戚のアカメは裏ボス的な存在。最大2m近くまで成長し、ネイティブのゲームフィッシングの本場はオーストラリアやインドネシアなど。

アカメ顔だが目は赤くない。光が当たると黄色の瞳が綺麗。

国内では西表島の浦内川で目撃例があるらしいが、基本的に国内生息はしていないものと考えて良い。となると釣るには海外へ赴くしかない。海外で最大2m級。完全にロマン溢れる怪魚狩りの部類である。しかしこの魚、観賞魚需要に加え、生息地周辺では広く食用にもされている。そして食用とあらば当然養殖もされている。日本では無理な話でも、ことタイにおいては、エサとなるティラピアなどのコストが安いことや土地の問題から盛んに養殖されており、養殖魚を利用した釣り堀や、そもそも釣り堀ではない養殖池で「どうせ出荷させるんだから客から金取って出荷前の魚釣らせようぜ」的な"釣りのできる養殖池"が多数存在する。というわけで、世界有数の"ロマン溢れない怪魚"それがタイの養殖バラマンディなのである。愛称は"ボリマンディ"。

タイ、特にバンコク近郊は、公共交通機関、タクシー、レンタカー等々非常に交通の便が良く、安全性もそれなりに保たれている優良海外旅行先ではあるものの、バラマンディ養殖池エリアや釣り堀が存在するような場所はさすがにバンコク中心部からは離れており移動手段は車に限られる。そのため、そんなバンコク郊外の釣り堀で釣りをしようと思った場合、手段としては以下のパターンが考えられる。

1.交通手段自前、釣り堀へ行く。

2.交通手段自前、養殖池へ行く。

3.送迎付きツアーをチャーター、釣り堀へ行く。

4.送迎付きツアーをチャーター、養殖池へ行く。

費用は数字に比例する。

先に少し触れたが、タイでは釣り堀(管理釣り場)と釣りのできる養殖池が存在する。前者は日本にもあるような釣り人用の釣りの為の池である。こちらはバラマンディはもちろん、ハタ、ナマズなど魚種に応じたものもあれば、アマゾン系の怪魚が色々とごちゃ混ぜで放流されている愉快な場所もあるのだが、基本的には多くの釣り人が訪れるため魚はスレている。そして後者の養殖池であるが、こちらの場合そもそも普段は釣り人を受け入れておらず前者の相場よりも高い金額を払うことで釣りが許されるというシステムになっていることが多い。つまり訪れる釣り人の数が圧倒的に少なく、魚自体も「出荷」という要因によって常時入れ替わっているため魚がスレていない確立が非常に高い。後者に関しても、そこそこ明確な料金体系が出来上がっており、場所さえ分かれば定食屋の裏メニュー程度の簡単さで入場をすることもできる。現にネット上には有名な養殖池の問い合わせ先がたくさん存在するが、現地まで行って不慣れな言語で値段に関する交渉をする手間と、一人旅での移動手段を考えた結果、今回の釣行はノータイムで上記選択肢の内の4をチョイスすることとなった。基本的に旅先でのトラブルというのは良い思い出となることが多いが、一人旅の場合の面倒事は笑い合う相手もおらず悲しいだけだし、ネット上の情報もほとんどがコロナ前のものだったので現状がどうなっているのかがほとんど分からないというのも大きな理由の一つだった。

私が西表島へ行く際には、いつもONE OCEANさんにガイドをしてもらうが、以前伺った際にタイに行くならここが良いよーと教えてもらったのが今回の釣りでお世話になったmokoleyさんだった。

www.mokoley.com

正確には、主にその話を聞いた晩に大量摂取した泡盛の影響でガイドの名前はまったく覚えていなかったため、タイ行きが決まった後、日本人がオーナーをやっているタイでの釣りガイドを色々調べまくった結果、ここのページのトップに前回の西表島で食事及び大量の泡盛と大量のオリオンビールの摂取をご一緒させて頂いた西表島ジャンキーのオジサマの写真が思いっきり出ていたため、ここだと確信したものである。後で改めて確認したところ、やはり間違いはなかった。

申込み段階では、まだタイも現在のようにほぼ完全開国に至っておらず、ツアーをやってくれているか心配だったが、終始丁寧なメールでのやり取りをさせて頂いて無事にツアー申込みという運びとなった。なお、お値段一人7,000バーツ(約26,000円)也。二人以上で申し込めば一人当たり5,000バーツ少々。多分、現地の交渉価格を考えるとそこそこ良いお値段がするが、カード決済可能、日本語でのやり取り、一人だけでもホテルまでの送迎、という快適性を考えると全く問題ない。超許容範囲内である。安くしようとすればいくらでも安くできるのが海外旅行だが、快適をお金で買うことができるのも海外旅行である。

ガイドさんのおかげで1人で行ってもこういう写真が残るのはありがたい

さて、釣行当日。痔持ちの私が前日の唐辛子に散々尻の穴を虐め尽くされた後、ホテル集合時間の10分前頃にロビーへと出ていくときちんとタイ人のガイドさんが待機してくれていた。なんと素晴らしい時間厳守。挨拶をして車へ荷物を積み込みいざ出発。途中高速道路を使いバンコク東部へと進んでいく。スワンナプーム空港も越え更に東のエリアへ。いやー、これは一人レンタカーはキツイと思った。送迎付き、大正解である。そこからまたしばらく走り、出発から約1時間ちょいで池が何個も点在するエリアの中の一つの池に到着。池の管理人と思われるもう一人のおっさんも合流し、私のようなおっさん一人の為に2人のおっさんが付きっきりというフルサポート体制の完成である。おっさんアベンジャーズ、アッセンブルだ。池周辺は当然何もないので日中はピーカン照りだが、池のおっさんが釣り客用にパラソル付きの椅子と机をセットしてくれているし、ガイドさんも四次元ポケットと化したクーラーボックスから大量に冷たいお水を出してくれた。もうこの時点で金に糸目つけなくてよかったわ…ととてつもない満足感を得た。魚釣ってないのに。

ネット上に点在するいくつかの情報から今回準備したタックルは以下の通りである。

1.メガバスVKC68M-4+カルカッタコンクエストDC200

2.ナマゾンモバイルS765MH+ストラディックC3000

どちらもラインはPE3号に60lbのリーダー。ロッドは2本ともパックロッドなので輸送はとても楽だった。本当はベイト1本でも十分だったが、海外まできてバックラッシュでベイト死亡なんてことになると時間がもったいないので念のための2本体制である。ベイトのセットは西表島でのライトキャスティングゲームで使っていたものを流用、スピニングはこちらも西表島で使っていたゾディアスパックの7ftミディアムを使おうと思っていたもののリーダー60lbのガイド抜けが不安だったので安くて評判の良いナマゾンを買った。帰国後売ったけど。

遠征という行為には、多少なりともアドベンチャー感が付きものだが、完全貸切の釣り場に客は自分一人、ポイントも人工的な皿池、ベースキャンプは快適な日陰付き椅子となるとまぁそんな感じはまったくせず。完全にホリデー気分である。とりあえず最初はのほほんと大きめのK-TENを投げてみる。結果、早速一投目から釣れてしまった。これは…

お昼ごはんも買ってきてくれる。タイのテイクアウト飯は本当に美味い。

以下、トップを投げる、ミノーを投げる、針の付いたサムシングを投げる、大体何でも釣れる、の無限ループである。バラマンディの引き味自体は素晴らしい。ほぼフルロックのベイトのドラグは音を立てて出ていくし、大切に養殖されてメタボってるボディからは想像できないぐらい見事な跳躍を見せてくれる。釣れる魚は大体70cmオーバー。ランディングと針外しは管理人のおっさんがやってくれる。ガイドのおっさんにお願いすれば写真も死ぬほど撮ってくれる。釣り場も皿池なので糸がまかれる心配もない。足場もほぼ360度移動可能だ。ここには釣りを邪魔するものは何もない。

投げる、釣れる。逃がす。投げる。釣れる。逃がす。途中からはもう群れに当たったワカサギ釣りや豆アジのサビキ釣りの超ダイナミック版の気分だ。キャッチアンドリリースは、魚を生かすための行為だけれども、ここのバラマンディは悲しいかな、これからドナドナされて人々のお腹に入る運命。キャッチアンドリリースとは…という哲学的命題に浸るもよし。ただただ入れ食いを楽しむもよし。

痴虫のイジリースティック。ハンドメイド系を投げるのは少し勇気がいる笑

最後に。今回の私のようなパターンでバラマンディ養殖池へ今後行かれる方向けのQ&Aを記しておきたい。ネットの僻地にあるようなこんなブログに辿り着いた方の参考に少しでもなれば幸いなことこの上ない。

Q.タックルは?

A.ロッドはMH相当ならバスタックルで十分だと思う。ただ、パワーとトルクはバスとは段違いなのであまりピンピンな最先端ロッドは避けた方が良い。グラスコンポジットのものや低弾性カーボン主体のものが適している。割と道具には物理的な負担のかかる釣りになると思うので、ガイドセッティングなどが繊細なロッドは避けるべき。怪魚系のマルチピースがあればドンピシャ。リールはPE3号が100mも巻ければ十分。あとは太めのリーダーのノット抜けが良いガイド径が大きいものを。極論を言えばロッドは鱒レンジャーでも大丈夫だ。池は基本的に浅く障害物もないので弱いタックルで時間をかけてファイトするというのも楽しみ方の一つとしてはありかもしれない。

Q.ラインシステムは?

A.養殖池でやる場合、繊細さは必要ないのでタックルバランスとの兼ね合いの中でできるだけ太いリーダーを入れたい。20lbクラスのリーダーでもやり取りが上手ければ釣り上げることはできるが、結び直しの手間を考えると太めのリーダーを数回使う方が良い。2,30匹釣った今回で、大体60lbのリーダーを一度ノットごと結び変えた。それぐらいの摩耗を念頭にあとは手返しとのバランスで。後述するが使うルアーのサイズによっても摩耗の度合いは異なる。

Q.推奨ルアーは?

A.なんでも釣れるが、あまり小さいものだと丸呑みされてリーダーが摩耗しやすくなるのでそこそこ大きいものが良い。また、基本塗装はズタズタになるのでそのつもりで。エアオグルなんかは死ぬほど釣れたが、丸呑みされることが多くリーダー損耗の手返しは悪かった。せっかくなのでデカトップでバイトを楽しむのも一興。ビッグベイトをガリガリに使い込むのもオススメ。多くの場合、フックはバーブレスがルール。リグは強いものを。牙魚ではないので本体の強度はそこまで重視する必要はない。今回使った中で反応が特に良かったものを強いて挙げると、エアオグル、K-TENミノー、TKR、フローティングマグナム、チャッグンスプーク、など。それと意外なところで痴虫の海馬。恐らくブレード自体を初めて見る魚がほとんどだったからか凄い勢いで襲われていた。バス仕様のダブルフック1本のままだったので中々乗らなかったが。

Q.フックは?

A.バスルアーを使う場合は最低でもST56に変更推奨。できればST66にしてスペアは必須。とにかく伸ばされるので。リングの強化もお忘れなく。ルアーの種類を増やすぐらいならフックをいっぱい持っていった方が良いかもしれない。逆にスキルアップ目的の楽しみ方として、標準バスフックでいかに曲げられないようにファイトするかという遊び方もできる。

Q.釣れますか?

A.釣れます。

Q.一人でも楽しめますか?

A.ガイドさんや池のおっさんは基本親切なのでコミュニケーションを取りながら楽しくできます。が、途中の飽きはどうしてもきてしまうからできれば大人数で。日本ではありえないような目の前でのビックリバイトに大ウケしながら楽しむのが吉。

Q.そんなに本格的な準備はいらない?

A.いりません。前述のフック周り、リーダー周りさえしっかりしていれば魚は釣れるので。逆に遠征だからと気合を入れて専用タックルを揃える必要はないかと思う。そのお金があったらもう一度タイに来ましょう。タックルの強度テストなんかにもオススメ。

Q.ぶっちゃけ、どうだった??

A.楽しかった。やってる時はもうええわ!と何回も言いたいぐらいだったけど、是非また行きたい。できれば気の合う仲間たちと。クーラーボックスにビール突っ込んでグリーンチャンネルでも流しつつゆるーく楽しむ感じで。もし、しんどくなっても途中で上がることもできるのでまずは行って体験すると良いと思う。

ロマンを求める釣りではない。でもやっぱりこの笑顔。

ここは南国タイ。ダムでチャドー狙いなんかも面白いかもしれないけど、やっぱりここは南国特有のトロンとした雰囲気に徹底的に酔うのが正解。ピリピリした日本の釣りに疲れた貴方へ。現在形のない釣り人の時制に絶望した貴方へ。

今回の釣行の模様は、ホームビデオ的にyoutubeにアップしている。あまりに釣れすぎて尺が長くなってしまったけど、お暇な方は是非ご覧下さい。

youtu.be

ขอบคุณครับ!また来るよ!

終始快適な釣りをさせてくれたおっさん2人。それを撮るおっさん1人。